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    2017

04.20

« 冬薔薇の咲く頃 »

ナユキです。二夜連続!です!
いやはや久しぶりの空軍妄想、自分で読み直して気づいたんですが昨日はトンデモナイ説明回でしたね。
一応設定組みはそれなりにしているので、今の所、謎部分は謎のままで…いい、よね。
だって浅海さんに誕生日何が欲しいか第三希望まで聞いたら、あろう事か( ^ω^ )「新作!新作!新作!」などと回答しやがり下さいましたのでね。
うん。



これ終わりと

思うジャン?



という訳で空軍妄想です。ニ夜連続。
妄想の基礎になっている設定についてはこの辺を参照ください。
あとは適当に左ツリーのカテゴリをご利用くだされ。
見なくても全然問題ないです。




初めてそこを訪れたのは冬薔薇の蕾がわずかに色づく季節だった。
「俺にはやめろなんて言えない。それであいつの気が済むって、わかっているから」
でも、と零した顔の幼さに似合わぬ大人びた表情が、子供が見てきた現実の陰惨さを知らしめている。
何を思い感じているのか黒く縁どられた眼鏡の奥に揺らぎはあっても世を恨むような激しい感情は存在せず、そこには怒りも悲哀も、懇願もない。
「復讐のためだけにぜんぶ捨てていくなんて、やっぱりあいつはバカだ」
吐露した声に含まれていたのは、ただ、ただ、惜別の情。
巧みに人だかりを縫っていく背を見送る目はまるで葬送のようで。
わずかに震えた語尾に、幼い痛切が垣間見えた。

「貴方のような方が訪れて下さったことに感謝します。木ノ葉児童宿舎へようこそ」
案内にたった女は、おそらく彼女が一番だと思う笑顔を浮かべたに違いない。
軍靴の音を少しも吸収できない硬い床板に、所々ヒビが入った窓。修繕が間に合っていないのかモルタル塗装の壁は劣化が激しく、建物の老朽化を思わせる。
これもこの国が持つ側面、昏い現実の一つだ。
天井を彩る万国旗や紙細工の花々の明るささえも、どこか陰のある子供たちの様子を見れば空々しい。
「戦闘機のパイロットをされているのですってね。怪我の療養中まで広報活動だなんて… 具合が悪ければすぐ仰って」
「この程度、空軍では日常茶飯事です。お構いなく」
首府・木ノ葉に程近い郊外。丘陵に建つ子供の園(キンダーガーデン)は、建国後まもなくして多く生まれた混血児とその迫害や浮浪問題を解消するために設立された国の施設だ。育児放棄された、或いは離散によって家を失くした子供の保護・養育を理念に設立され、氏族の分け隔てなく機能してきた―― 近年までは。うちはが起こした反乱の影響で大量の戦災孤児が出てからというものの、その存在意義は一部特殊なものへと変わりつつある。
「子供たちはみな、大人に不信を抱いています。悲しい事に、職員にも心を開く子は多くありません。あの子たちの境遇を思えば当然のことですが…」
美しい横顔が陰るのを偽善とは思わない。その名に冠した氏姓とを鑑みれば、むしろ彼女は余程善良な部類に入る。
孤児院といえば聞こえはいいが未だ氏族の独立性が色濃く残っている連邦において、コミュニティの構成員はコミュニティ内部で養育されるのが慣例だ。ここにいるのは、『国』の力でなければ保護を受けられない子供たち――己にとって最後の拠り所である氏族からすらも見放された、『小さきもの』だ。
「心痛、お察ししする」
そんな言葉のなんたる薄っぺらさか。
「いいえ。悲しみをして勝る喜びに満ちた仕事ですわ」
そう言わざるを得ない現実に彼女は力なく、しかし許容するように微笑んだ。
恐らくはこれが若くして施設長を務めている彼女の強さだ。どんな場所でも生きていく事を諦めない、現実の辛辣さに立ち向かおうとする意志を宿した目には年齢を超えて他者を圧倒させるだけの芯があった。
「渦潮の名に恥じぬ才媛とお見受けする。自分にも貴女のような強さがあればよかった」
言葉にしてから、しまったと思った。
こんな愚痴のような事を云うつもりは毛頭なかったのに彼女の持つ眩しさについ卑屈な本音が漏れた。思うように戦闘機に乗れない焦りか、一連の怪我の影響で精神的に弱っていたのか。今更悔やんでも一度零れたものを取り戻すことはできない。

案の定、こちらを見る彼女の表情にも驚きが満ちている。しかし、それは想像していたような感情ではなかった。
「まあ、屈強な殿方に褒められると少々面映ゆいわね。…でも氏姓など然程問題ではありませんわ、特に此処ではね」
まったくその通りだった。
「…失礼、思慮が足りませんでした」
「お優しい方」
今までいらした軍人さんは皆さん終始しかめっ面で、と口に手を当てて笑う。
「武力や権力など全くの些事。猛き物も終には滅びます。まずは自分が何者であるかを知る事が重要なのです。人は、それだけで強くなれますのよ」
「教育哲学というやつですか」
「いいえ。そんな大層なものではないわ。自身の弱さを認めるのは苦痛かもしれない、けれど自分を理解しようとする行為は他者を理解しようとするそれと何が違って?不理解に対する懼れが人の思考を奪い、凶行に走らせるのよ」
「たしかに。身に覚えのある話だ」
まさかこんな所で医師でも軍人でもない民間人に諭されるとは。
代々研究者として研鑽を積み重ねてきた渦潮一族らしい考えだ。皆が皆同じ考えを持てればよかったろうが、それが叶うべくもない絵空事である事もわかっている。
きっと彼女のような人間からすれば兵器や武力を用いて命の応酬をしている自分たちの在り方はさぞ野蛮で愚かしく映る事だろう。
「ふふ、私ったら不作法ね。こういった精神哲学こそ千手一族の領分なのに、まるでお坊さんに説法を聞かせている気分だわ」
「それこそ全くの些事です。今の世に必要なのは権威などではない。より現実的な実践と検証だ」
「私はただの理想家です。拠り所のない子供たちの命は繋げても心までは救う事ができない。今云ったことと現実の差も分かっているつもり」
長い長い廊下の終わりに差し掛かり、足が止まる。女性にしては高い身長は身の内に持った慈愛や思慮深さ、知性を少しも損なっていない。
その眼差しを一度窓の外で遊んでいる子供たち向け、自分へと移す。
「たった二文字の響きだけで人々の希望となり、また同じだけ畏怖を与える名を持つ貴方」
わずかに潤む双眸がどんな感情を有していたのか。
連邦の形成期に入っても有能であるが故に国を出る事を許されず、半ば亡命という形で東の海を渡ってきた彼ら。
研究を手放し、職を失しても最早戻る道はなく、行く先にあるのが困難であったとしても前に進むしかない。
「特別には相応の責任が付随するものです。どうか貴方のゆく道が、子供たちを導く希望となりますように」
「…ずいぶんと重い責任だ」
いまや自分の道さえ分からないのに。
彼女は知らないのだ。自分がどんな戦場に赴き、何をしてきたのか。この任務をどれ程嫌がっていたか。
窓から望む空は鮮やかな快晴。なのに、どこかで遠雷が鳴っている。



『冬薔薇の咲くころ』
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